左廻。
同じ空気を吸いたくない相手とはなぜか電車に乗り合わせたり、もう一度会いたい誰かには巡り会わなかったりするものだ。
東京は密度が濃い。
狭い空間に多種多様が散りばめられている。
欲というのは恐ろしいもので、一度満足してしまえば同じものでは満足できなくなる。
札勘を終え、金庫に鍵をかける。私の欲しいものは買えなかった紙。
身体を売らずにここまで稼げるのかと驚いた。性を売ってないかと聞かれれば答えはno。
しかし、とある映画監督は言った。
「すべての仕事は売春である」
言葉の真意を考えないのは愚かだが、愚者としてこの言葉を盲信しよう。
正しい稼ぎ方と言われるものがこの世にあるのなら、それはきっとマジョリティなだけだ。数十年前、株式投資は詐欺と同義に捉えられていた。それが今や資産形成の代名詞であり、投資しない奴は損をしていると揶揄う奴もいる。
正しさなんて瞬きする間に変わるものだ。
謝罪ではなく感謝をしようと思った。
誇張はしても嘘はつかないようにしようと思った。
自然と人が増えてきた。
でもそれは、人の良い大人だけだった。
人の良い大人は存在しているだけの私を助けてくれた。皿とカトラリーが不愉快な音を立てても、合わせてビールを頼まなくても、彼らは嫌な顔ひとつしなかった。
彼らの中には私の存在すらなくても助けてくれるものもいた。
私の周りは狂った人間しかいなくなった。
欲しいものは何一つ手に入らない人生だった。
否、欲しいものはほぼ全て手に入れていらなくなった人生だったのかもしれない。
お金で買えないものがあるのだと、お金を手に入れる前に教えて欲しかった。
私が狂う前に、周りが狂う前に、誰かに教えてもらいたかった。